BtoB ECは営業を不要にするのか?対面営業との共存戦略

デジタル化の進展と営業の未来

BtoB企業におけるEC導入が進む中、「デジタル化によって営業職は不要になるのではないか」という懸念の声が少なからず聞かれます。確かにECの普及によって従来の受発注業務は自動化され、単純な営業活動は減少するでしょう。しかし結論から言えば、EC化は営業職を消滅させるのではなく、むしろその役割と重要性を変化させ、場合によっては強化する方向に作用します。

本稿では、BtoB ECと対面営業の効果的な共存戦略について、実例を交えながら解説します。

デジタル化で営業時間はむしろ増加する

解放される時間の再配分

EC導入によって最も大きく変わるのは、営業担当者の「時間の使い方」です。従来、営業担当者の業務時間の多くを占めていた以下の業務が大幅に削減されます。

  • 定型的な受発注対応
  • 在庫確認、納期回答
  • 価格・仕様の基本的な問い合わせ対応
  • 請求書発行、支払い確認

ある製造業のデータによれば、こうした定型業務に従来の営業担当者は週の業務時間の約40%を費やしていました。EC導入後、これらの業務は90%以上が自動化され、結果として営業担当者一人あたり週に約16時間が解放されたのです。

質の高い営業活動への集中

解放された時間は、より付加価値の高い営業活動に充てることができます。具体的には:

  • 戦略的な顧客訪問:単なる受注のための訪問ではなく、顧客の課題解決や長期的な関係構築に焦点を当てた訪問
  • 提案型営業の強化:顧客の潜在的ニーズを掘り起こし、新たな価値を提案する営業
  • 複雑案件への注力:標準品はECに任せ、カスタマイズや大型案件に集中
  • 新規顧客開拓:既存顧客の定型業務から解放されることで、新規顧客への営業活動に時間を投下

つまり、EC導入は営業担当者から「注文取り」という単調な業務を取り除き、より創造的で戦略的な営業活動に専念できる環境を作り出すのです。

デジタル化で対面営業の価値が向上する理由

情報格差の変化による営業価値の再定義

インターネットの普及により、顧客は多くの情報に容易にアクセスできるようになりました。このような環境では、単に商品情報を伝える営業の価値は低下する一方、以下のような価値提供が重要性を増しています:

  • コンテキスト理解に基づく提案:顧客のビジネス全体を理解した上での提案
  • 複合的ソリューション提供:単一商品ではなく、問題解決のための総合的なソリューション
  • 専門的な知見の提供:オンラインでは得られない専門的なアドバイス
  • リレーションシップの構築:長期的な信頼関係に基づく協業

つまり、情報提供型営業から価値創造型営業へのシフトが求められているのです。

データ活用による営業の質的向上

EC導入の大きなメリットの一つは、顧客データの蓄積です。このデータを活用することで、対面営業の質は飛躍的に向上します。

  • 顧客の購買行動分析:過去の購入履歴やサイト閲覧データから潜在ニーズを予測
  • タイミングの最適化:顧客の購買サイクルを分析し、最適なタイミングでのアプローチ
  • パーソナライズされた提案:顧客固有のニーズに基づいたカスタマイズ提案
  • 営業活動の効果測定:対面営業の効果を定量的に把握し改善

例えば、ある機械部品メーカーでは、ECサイトの閲覧データを分析して「特定の製品カテゴリに関心を示している顧客」を抽出し、営業担当者がその分野の専門的な提案を携えて訪問するというアプローチを実施。従来の「勘と経験」に頼った営業と比較して、商談成約率が2.3倍に向上しました。

見込み顧客育成と営業人員の教育負荷軽減

デジタルを活用した見込み顧客の育成

EC導入の重要なメリットとして、「見込み顧客の育成(リードナーチャリング)」があります。これにより営業担当者は「温度の高い」見込み客に集中できるようになります。

  • コンテンツマーケティング:有益な情報提供を通じた見込み客の教育
  • 段階的な情報提供:顧客の関心度に応じた適切な情報の提供
  • 行動トラッキング:顧客の反応を測定し、最適なアプローチを判断
  • 自動フォロー:定期的な情報提供や確認のシステム化

ある産業機器メーカーでは、製品情報やケーススタディをオンラインで提供し、そのコンテンツに強い関心を示した顧客にのみ営業担当者が接触する戦略を採用。これにより営業訪問の効率が42%向上し、営業担当者一人あたりの成約件数が大幅に増加しました。

営業人員の教育負荷の軽減

デジタル化は新人営業担当者の教育負担も大きく軽減します。

  • 基本情報のデジタル化:製品知識や基本的な営業プロセスのオンライン化
  • 標準的なやりとりの可視化:ECサイト上での一般的な顧客とのやりとりを学習材料として活用
  • 段階的な営業スキル習得:単純な案件はECに任せ、徐々に複雑な案件に挑戦
  • 成功事例のデータベース化:効果的な提案や交渉のアプローチを共有

多くの企業では、新人が基本的な製品知識を習得するのに3〜6ヶ月を要していましたが、体系化されたオンライン学習システムの導入により、この期間を平均1.5ヶ月に短縮できた事例もあります。また、標準的な問い合わせや受発注がECに集約されることで、新人でも複雑なケースへの対応に集中できるようになり、より効率的なOJTが可能になります。

成功事例に学ぶEC・営業共存モデル

事例1:役割分担で効率を最大化した工業部品メーカー

工業部品メーカーA社は、「標準品はEC、特注品は営業担当者」という明確な役割分担を行いました。ECサイトには詳細な製品情報と選定ツールを用意し、顧客が自分で適切な製品を選べる環境を整備。営業担当者は特殊な要件を持つ顧客や大型プロジェクトに集中するようになりました。

結果として売上は18%増加する一方、営業コストは12%減少。営業担当者のモチベーションも向上しました。従来は単純な受注業務に追われていた営業担当者が、より創造的な提案業務に従事するようになり、顧客満足度向上と営業担当者の離職率低下という二重の効果が見られました。

事例2:データ連携で営業力を強化した専門商社

産業資材を扱う専門商社B社は、ECサイトと営業活動の緊密な連携に焦点を当てました。顧客のECサイト上の行動(閲覧履歴、検索キーワード、カート放棄など)を分析し、営業担当者にリアルタイムで提供。例えば、特定の商品カテゴリを繰り返し閲覧しているものの購入に至らない顧客に対して、営業担当者が関連する専門知識を持って訪問するといった対応を実現しました。

この「デジタルとヒトの協働」モデルにより、営業訪問の的中率が向上し、顧客一社あたりの取引額が平均27%増加。また、「顧客が何に興味を持っているか」という情報が事前にわかることで、営業担当者は事前準備を綿密に行えるようになり、より質の高い商談が可能になりました。

事例3:新人教育を効率化した製造機器メーカー

製造機器メーカーC社は、新人営業担当者の教育にECシステムを積極的に活用しています。同社では、新人は最初の3ヶ月間、ECサイトの問い合わせ対応チームに所属し、顧客からのオンライン質問に回答する業務を担当。この過程で製品知識や一般的な顧客ニーズを体系的に学習します。

また、ベテラン営業の商談プロセスや提案内容をデータベース化し、新人がいつでも参照できる環境を整備。この結果、新人営業の戦力化までの期間が平均40%短縮され、教育に関わるベテラン営業の負担も大幅に軽減されました。

EC時代の営業組織再構築の指針

営業担当者のスキルシフト

EC時代に求められる営業担当者のスキルセットは、従来とは大きく異なります。

従来の営業スキル:

  • 製品知識の伝達
  • 価格交渉
  • 受発注処理の正確性
  • フォローアップの徹底

EC時代に求められる営業スキル:

  • 顧客ビジネスへの深い理解
  • 課題発見・解決提案能力
  • データ分析・活用能力
  • コンサルティング的アプローチ
  • チームコーディネーション能力

こうしたスキルシフトを促進するために、計画的な研修や評価基準の見直しが必要です。

まとめ:EC導入は営業進化の大きなチャンス

BtoB企業におけるEC導入は、営業職を不要にするどころか、むしろ対面営業の質と効率を高める大きなチャンスです。単純な受発注業務から解放された営業担当者は、より戦略的で創造的な活動に時間を投下できるようになります。

また、デジタル化によって得られる顧客データは、的確なアプローチと高度な提案を可能にし、営業活動の成功率を大きく向上させます。さらに、見込み顧客の育成プロセスの自動化や、新人教育の効率化など、営業組織全体の生産性向上にもつながります。

重要なのは、「ECと営業の対立」ではなく「ECと営業の協働」という視点です。両者の強みを最大限に活かす共存戦略を構築することで、顧客満足度向上と営業効率化の両立が可能になります。

自社のデジタル化戦略を考える際は、「営業を減らすためのEC」ではなく「営業を進化させるためのEC」という発想で取り組むことが成功の鍵となるでしょう。